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24.東京(とうきょう)の水道(すいどう)

東京(とうきょう)の水道(すいどう)の歴史(れきし)

東京(とうきょう)の水道(すいどう)の歴史(れきし)は、天正(てんしょう)18（1590）年(ねん)の徳川(とくがわ)家康(いえやす)の江戸(えど)入(い)りから始(はじ)まる。家康(いえやす)は、江戸(えど)に城下町(じょうかまち)をひらくのに先立(さきだ)って、上水(じょうすい)の見立(みた)てを家臣(かしん)に命令(めいれい)した。人(ひと)が生活(せいかつ)をしていくのにどうしたって水(みず)は欠(か)かせないものね。その調査(ちょうさ)をもとにできたのが神田(かんだ)上水(じょうすい)。それでも、なお江戸(えど)の人口(じんこう)は増(ふ)えつづけ、飲(の)み水(みず)は足(た)りなくなる一方(いっぽう)。そこで、玉川(たまがわ)上水(じょうすい)や、青山(あおやま)・亀有(かめあり)・三田(みた)・千川(せんかわ)の上水(じょうすい)が開(ひら)かれていった。
どんどんふくらんでゆく都市(とし)の飲(の)み水(みず)を手(て)に入(い)れるために、東京(とうきょう)の水道(すいどう)は誕生(たんじょう)の時(とき)から、工事(こうじ)、工事(こうじ)の連続(れんぞく)だった。そのうえ、幕末(ばくまつ)になって開国(かいこく)をしたら外国(がいこく)から伝染病(でんせんびょう)がはいって来(く)るようになった。伝染病(でんせんびょう)を防(ふせ)ぐためには清潔(せいけつ)な飲(の)み水(みず)が必要(ひつよう)だ。
明治(めいじ)にはいると、江戸(えど)時代(じだい)からずっと引(ひ)きつづいてきた木樋(もくひ)（木(き)のとい）の水道(すいどう)を近代的(きんだいてき)な鉄管(てっかん)にかえるという大事業(だいじぎょう)が待(ま)っていた。
この新(あたら)しい水道(すいどう)（改良(かいりょう)水道(すいどう)）は日本人(にっぽんじん)だけの力(ちから)じゃなく、外国(がいこく)のいろいろな人(ひと)たちの経験(けいけん)や知識(ちしき)や、技術(ぎじゅつ)を借(か)りてできあがった。
その後(ご)も、関東(かんとう)大震災(だいしんさい)はくる、太平洋(たいへいよう)戦争(せんそう)で空襲(くうしゅう)を受(う)ける、大型(おおがた)台風(たいふう)に見舞(みま)われるなど、さまざまな困難(こんなん)が東京(とうきょう)の水道(すいどう)に襲(おそ)いかかった。
何度(なんど)もの打撃(だげき)から、その都度(つど)立(た)ち上(あ)がり、増(ふ)えつづける水(みず)の需要(じゅよう)にこたえるため、新(あたら)しい水源(すいげん)を探(さが)し、施設(しせつ)を建設(けんせつ)して、今(いま)の東京(とうきょう)の水道(すいどう)は出来(でき)上(あ)がっていったんだよ。大変(たいへん)な道(みち)のりだったんだよねえ。

東京(とうきょう)の水道(すいどう)今(いま)むかし その1

1.江戸(えど)時代(じだい)前(まえ)
太田道灌(おおたどうかん)が江戸(えど)城(じょう)を築(きず)いた1457年(ねん)頃(ころ)には、江戸(えど)は小(ちい)さな村(むら)がポツンポツンとちらばっているだけ。飲(の)み水(みず)には沼地(ぬまち)の間(あいだ)を流(なが)れる小川(おがわ)や、数少(かずすく)ない堀井(ほりい)が利用(りよう)されていた。

2.江戸(えど)上水(じょうすい)のはじまり
天正(てんしょう)18（1590）年(ねん)8月(がつ)1日(ついたち)、徳川(とくがわ)家康(いえやす)は江戸(えど)にはいり、町(まち)づくりを始(はじ)めた。
その時(とき)、ひと足先(あしさき)に家臣(かしん)大久保(おおくぼ)藤五郎(とうごろう)に上水(じょうすい)の見立(みた)てを命(めい)じていた。この調査(ちょうさ)によって、江戸(えど)最初(さいしょ)の上水(じょうすい)、神田(かんだ)上水(じょうすい)はできた。神田(かんだ)上水(じょうすい)は井(い)の頭池(かしらいけ)を水源(すいげん)に永福寺池(えいふくじいけ)、善福寺川(ぜんぷくじがわ)、井草川(いぐさがわ)などの水(みず)を加(くわ)えて、小石川(こいしかわ)にいたる。
藤五郎(とうごろう)はその功(こう)によって「主水」の名(な)をもらった。ふつうは「モンド」と読(よ)むのだけれど、水(みず)に濁(にご)りは禁物(きんもつ)、と「モント」を澄(す)んで読(よ)むよう言(い)いわたされたとか。

3.玉川(たまがわ)上水(じょうすい)
徳川(とくがわ)幕府(ばくふ)の体制(たいせい)が整(ととの)い、江戸(えど)が政治(せいじ)の中心(ちゅうしん)になってくると、人口(じんこう)はますます増(ふ)える。飲(の)み水(みず)はますます足(た)りなくなる。承応(じょうおう)2（1653）年(ねん)、4代(だい)将軍(しょうぐん)家綱(いえつな)の時(とき)、多摩川(たまがわ)の水(みず)を飲(の)み水(みず)として引(ひ)く水道(すいどう)工事(こうじ)が始(はじ)まった。玉川(たまがわ)上水(じょうすい)だ。
時(とき)の関東(かんとう)郡代(ぐんだい)、伊奈(いな)半左衛門(はんざえもん)の監督(かんとく)のもと、庄右衛門(しょうえもん)、清右衛門(せいえもん)兄弟(きょうだい)が工事(こうじ)にあたった。
承応(じょうおう)3（1654）年(ねん)6月(がつ)には羽村(はむら)から四谷(よつや)大木戸(おおきど)まで43キロメートルの上水路(じょうすいろ)を完成(かんせい)。江戸(えど)の人(ひと)びとの飲(の)み水(みず)としてばかりでなく、分水(ぶんすい)によって武蔵野(むさしの)新田(しんでん)の飲(の)み水(みず)や、かんがい用水(ようすい)として利用(りよう)。新田(しんでん)の開発(かいはつ)は玉川(たまがわ)上水(じょうすい)があったからこそできた。

4.江戸(えど)の華(はな)とは言(い)うけれどやっぱり火事(かじ)はこまるのだ！
江戸(えど)はまた火事(かじ)の多(おお)い都市(とし)でもあった。とくに明暦(めいれき)3（1657）年(ねん)、1月(がつ)18日(にち)の大火(たいか)は「振袖(ふりそで)火事(かじ)」とよばれ、江戸(えど)の3分(ぶん)の2を焼(や)きつくし、死者(ししゃ)10万人(まんにん)以上(いじょう)をだした。
この火事(かじ)からの復興(ふっこう)の時(とき)、江戸(えど)の大規模(だいきぼ)な防災(ぼうさい)計画(けいかく)をおこない、そのため市街地(しがいち)も南(みなみ)・西(にし)・北(きた)の郊外(こうがい)に広(ひろ)がった。
江戸(えど)の町(まち)が広(ひろ)がれば、飲(の)み水(みず)もまた多(おお)く必要(ひつよう)になる。そこでできたのが、青山(あおやま)・三田(みた)・亀有(かめあり)・千川(せんかわ)の四上水(じょうすい)。亀有(かめあり)以外(いがい)の三上水(じょうすい)は全(すべ)て玉川(たまがわ)上水(じょうすい)からの分水(ぶんすい)だった。
この頃(ころ)、江戸(えど)の人口(じんこう)は100万人(まんにん)をこえていたという。上水道(じょうすいどう)はその人口(じんこう)の60パーセントに普及(ふきゅう)していたとみられている。

5.どうやってめぐっていたか、江戸(えど)の上水(じょうすい)
江戸(えど)の上水(じょうすい)は川(かわ)や池(いけ)の水(みず)を引(ひ)いて、そのまま飲(の)み水(みず)としていた。江戸(えど)市内(しない)の道路(どうろ)の下(した)には、給水(きゅうすい)のための石樋(せきひ)（石(いし)のとい）や木樋(もくひ)（木(き)のとい）が網(あみ)の目(め)のように走(はし)っていた。（つまり水道管(すいどうかん)だね。）それであちこちに溜桝(ためます)というのを埋(う)めて、水(みず)をため、つるべなどで水(みず)を汲(く)み上(あ)げた。これが上水(じょうすい)井戸(いど)だ。木樋(もくひ)は檜(ひのき)や松(まつ)などで作(つく)られた。
上水(じょうすい)をきちんとしておくために、毎年(まいとし)のように羽村(はむら)の取入口(とりいれぐち)の堰(せき)や、水門(すいもん)や樋(とい)や桝(ます)の修理(しゅうり)をおこなわなければならない。たくさんの費用(ひよう)と人手(ひとで)がかかった。
このため、上水(じょうすい)の使用料(しようりょう)として水銀(みずぎん)や普請金(ふしんきん)（工事(こうじ)の費用(ひよう)）を集(あつ)めた。

6.明治(めいじ)維新(いしん)と上水(じょうすい)
慶応(けいおう)4（1868）年(ねん)7月(がつ)17日(にち)、江戸(えど)は東京(とうきょう)となり、9月(がつ)8日(ようか)に元号(げんごう)も明治(めいじ)に改(あらた)まる。
明治(めいじ)維新(いしん)は水道(すいどう)にも大(おお)きな影響(えいきょう)をおよぼした。維新(いしん)の混乱(こんらん)で水道(すいどう)を保(たも)っていくのに必要(ひつよう)な水銀(みずぎん)（水道(すいどう)料金(りょうきん)）がはいらなくなってしまったのだ。
当面(とうめん)、明治(めいじ)政府(せいふ)が費用(ひよう)を負担(ふたん)したけれど大変(たいへん)な金額(きんがく)だから、いつまでもそうするわけにはいかない。
明治(めいじ)4（1871）年(ねん)5月(がつ)、水税(みずぜい)規則(きそく)をつくって料金(りょうきん)を集(あつ)めると知(し)らせたけれど、うまくいかず、再(ふたた)び水道(すいどう)料金(りょうきん)を集(あつ)めるようになったのは明治(めいじ)7（1874）年(ねん)10月(がつ)だった。

7.つかのまの玉川(たまがわ)上水(じょうすい)通船(つうせん)
明治(めいじ)3（1870）年(ねん)4月(がつ)から、わずか2年(ねん)あまり、羽村(はむら)から四谷(よつや)大木戸(おおきど)の間(あいだ)を船(ふね)が通(とお)った。江戸(えど)時代(じだい)には、大事(だいじ)な飲(の)み水(みず)、玉川(たまがわ)上水(じょうすい)に船(ふね)を通(とお)すなど考(かんが)えられないことだった。
けれど、明治(めいじ)新(しん)政府(せいふ)の薩摩(さつま)や長州(ちょうしゅう)の役人(やくにん)は、まだ江戸(えど)の事情(じじょう)がよくわからない。どさくさにまぎれて地元(じもと)からの「船(ふね)を通(とお)したい」との願(ねが)いは許可(きょか)されてしまったらしい…。
船(ふね)なら羽村(はむら)から四谷(よつや)まで1日(いちにち)足(た)らずで行(い)く。しかもたくさんの品物(しなもの)が運(はこ)べる。砂利(じゃり)や石灰(せっかい)などをはじめ、多摩(たま)からは野菜(やさい)・炭(すみ)・薪(まき)・たばこ・茶(ちゃ)・生糸(きいと)・木綿(もめん)など、東京(とうきょう)からは塩(しお)や魚(さかな)をのせてきた。人(ひと)の往(ゆ)き来(き)にも使(つか)われた。
しかし、あまりに上水(じょうすい)の汚(よご)れがひどくなったので、明治(めいじ)5（1872）年(ねん)5月(がつ)末限(まつかぎ)りで通船(つうせん)はとりやめとなった。何度(なんど)も再開(さいかい)の願(ねが)いが出(だ)されたが、二度(にど)と許(ゆる)されることはなかった。
同(おな)じく5月(がつ)には、玉川(たまがわ)上水(じょうすい)沿(ぞ)いの村々(むらむら)に「上水(じょうすい)で洗(あら)い物(もの)をしたり、ごみなどを捨(す)てたりして水(みず)を汚(よご)してはならない」と厳(きび)しい命令(めいれい)が下(くだ)った。

8.明治(めいじ)初(はじ)めのころの東京(とうきょう)水(みず)事情(じじょう)
文明(ぶんめい)開化(かいか)のかけ声(ごえ)とともに東京(とうきょう)は急速(きゅうそく)に発展(はってん)した。でも、町(まち)の環境(かんきょう)は江戸(えど)時代(じだい)のまま。道路(どうろ)は狭(せま)くまがりくねっている。木造(もくぞう)の家(いえ)がつらなって火事(かじ)も多(おお)い。水道(すいどう)も木樋(もくひ)で旧式(きゅうしき)のまま。古(ふる)くなって腐(くさ)った上水(じょうすい)の木樋(もくひ)や下水(げすい)のどぶなどのため、伝染病(でんせんびょう)も防(ふせ)げない。
井戸(いど)から地下水(ちかすい)を汲(く)み上(あ)げて、飲(の)み水(みず)にしている人(ひと)も多(おお)かったけれど、水(みず)の質(しつ)も悪(わる)く、夏場(なつば)には水(みず)不足(ぶそく)になることもしばしばだ。
明治(めいじ)7（1874）年(ねん)頃(ころ)から「旧式(きゅうしき)水道(すいどう)を改良(かいりょう)してほしい」という声(こえ)が強(つよ)くなっていった。

9.改良(かいりょう)水道(すいどう)がほしい！
明治(めいじ)5（1872）年(ねん)5月(がつ)から、神田(かんだ)・玉川(たまがわ)の両(りょう)上水(じょうすい)は東京府(とうきょうふ)が管理(かんり)するようになった。東京府(とうきょうふ)は明治(めいじ)7（1874）年(ねん)に玉川(たまがわ)上水(じょうすい)の、明治(めいじ)8（1875）年(ねん)と10（1877）年(ねん)に、神田(かんだ)上水(じょうすい)の水質(すいしつ)検査(けんさ)をおこなった。この結果(けっか)、水源(すいげん)の水質(すいしつ)は良(よ)いけれど、木樋(もくひ)で引(ひ)いた井戸(いど)水(みず)は、腐(くさ)った所(ところ)から汚(よご)れた水(みず)がはいったりして、悪(わる)くなっている、ということだった。
上水(じょうすい)井戸(いど)とともに掘(ほり)井戸(いど)（地下水(ちかすい)を汲(く)み上(あ)げる井戸(いど)）の水質(すいしつ)検査(けんさ)もおこなって、上水(じょうすい)井戸(いど)はその半分(はんぶん)が、掘(ほり)井戸(いど)は60パーセントが飲(の)み水(みず)にむかない、というありさまだった。
水道(すいどう)を改良(かいりょう)したいけれど、維新(いしん)後(ご)まもなくで、予算(よさん)がない。そこでとりあえずは、水(みず)の汚(よご)れを防(ふせ)ごうと警視庁(けいしちょう)から、
明治(めいじ)11（1878）年(ねん)に「神田(かんだ)・玉川(たまがわ)両(りょう)上水(じょうすい)取締(とりしまり)禁止令(きんしれい)」
明治(めいじ)14（1881）年(ねん)に「千川(せんかわ)上水(じょうすい)取締(とりしまり)禁止令(きんしれい)」が出(だ)された。

10.ファン・ドールン登場(とうじょう)
江戸(えど)時代(じだい)まで、日本(にっぽん)には近代的(きんだいてき)な水道(すいどう)はひとつもなかった。だから、その調査(ちょうさ)や計画(けいかく)には外国人(がいこくじん)の専門(せんもん)の技師(ぎし)を招(まね)いて教(おし)えをこうほかはない。
東京(とうきょう)の水道(すいどう)は、内務省(ないむしょう)のお雇(やと)い技師(ぎし)、オランダ人(じん)ファン・ドールンが政府(せいふ)の命令(めいれい)で調査(ちょうさ)にあたった。
ファン・ドールンは明治(めいじ)7（1874）年(ねん)5月(がつ)に「東京(とうきょう)水道(すいどう)改良(かいりょう)意見(いけん)」を、さらに明治(めいじ)8（1875）年(ねん)2月(がつ)には実地(じっち)調査(ちょうさ)をまとめて、設計書(けいかくしょ)を提出(ていしゅつ)した。
その内容(ないよう)は、「多摩川(たまがわ)を水源(すいげん)とし、玉川(たまがわ)上水路(じょうすいろ)を使(つか)って水(みず)を流(なが)し、浄水場(じょうすいじょう)を建(た)て、ろ過池(かち)でろ過(か)した水(みず)を浄水池(じょうすいち)にためて鉄管(てっかん)で市内(しない)に給水(きゅうすい)する」というもの。これはこれより後(のち)の東京(とうきょう)の水道(すいどう)設計(せっけい)の基本(きほん)となった。
明治(めいじ)9（1876）年(ねん)12月(がつ)、東京府(とうきょうふ)に水道(すいどう)改正(かいせい)委員(いいん)が設(もう)けられ、調査(ちょうさ)をおこなった結果(けっか)を明治(めいじ)10（1877）年(ねん)9月(がつ)「府下(ふか)水道(すいどう)改設(かいせつ)の概略(がいりゃく)」として出版(しゅっぱん)。改良(かいりょう)水道(すいどう)の設計(せっけい)を検討(けんとう)した。

日本(にっぽん)の近代(きんだい)水道(すいどう)
明治(めいじ)20年(ねん) 横浜(よこはま)水道(すいどう) 通水(つうすい)開始(かいし)
22年(ねん) 函館(はこだて)水道(すいどう) 通水(つうすい)開始(かいし)
24年(ねん) 長崎(ながさき)水道(すいどう) 通水(つうすい)開始(かいし)
28年(ねん) 大阪(おおさか)水道(すいどう) 通水(つうすい)開始(かいし)
31年(ねん)8月(がつ) 広島(ひろしま)水道(すいどう) 通水(つうすい)開始(かいし)
31年(ねん)12月(がつ) 東京(とうきょう)水道(すいどう) 通水(つうすい)開始(かいし)
33年(ねん) 神田(かんだ)水道(すいどう) 通水(つうすい)開始(かいし)
38年(ねん) 岡山(おかやま)水道(すいどう) 通水(つうすい)開始(かいし)
39年(ねん) 下関(しものせき)水道(すいどう) 通水(つうすい)開始(かいし)

11.いよいよ改良(かいりょう)水道(すいどう)へ
明治(めいじ)19（1886）年(ねん)のコレラ大流行(だいりゅうこう)は、改良(かいりょう)水道(すいどう)を作(つく)ろう！という気運(きうん)をおおいに高(たか)めた。
明治(めいじ)21（1888）年(ねん)8月(がつ)「東京(とうきょう)市区(しく)改正(かいせい)条例(じょうれい)」公布(こうふ)。
同(おな)じ年(とし)10月(がつ)には内務省(ないむしょう)に東京(とうきょう)市区(しく)改正(かいせい)委員会(いいんかい)ができる。これは、東京(とうきょう)市区(しく)の衛生(えいせい)・防火(ぼうか)や交通(こうつう)などを良(よ)くするための設計(せっけい)や事業(じぎょう)について話(はな)し合(あ)う委員会(いいんかい)だ。
ここでも、改良(かいりょう)水道(すいどう)はまっ先(さき)に考(かんが)えなければならない問題(もんだい)として取(と)り上(あ)げられた。

12.外国人(がいこくじん)技師(ぎし)たちの活(かつ)やく
明治(めいじ)20（1887）年(ねん)、渋沢(しぶさわ)栄一(えいいち)ら9人(にん)の財界(ざいかい)人(じん)は「東京(とうきょう)水道(すいどう)会社(かいしゃ)」の設立(せつりつ)を計画(けいかく)した。そのための調査(ちょうさ)と設計(せっけい)を、横浜(よこはま)に日本(にっぽん)最初(さいしょ)の近代(きんだい)水道(すいどう)を完成させたイギリス人(じん)技師(ぎし)パーマーに頼(たの)んだ。明治(めいじ)21（1888）年(ねん)12月(がつ)に、会社(かいしゃ)設立(せつりつ)の願(ねが)いを国(くに)に出(だ)したけれど明治(めいじ)23（1890）年(ねん)2月(がつ)に公布(こうふ)された日本(にっぽん)最初(さいしょ)の水道(すいどう)の法律(ほうりつ)「水道(すいどう)条例(じょうれい)」のために不許可(ふきょか)となった。「水道(すいどう)は市町村(しちょうそん)が公営(こうえい)すること」とこの法律(ほうりつ)で決(き)められたからだ。
「東京(とうきょう)水道(すいどう)会社(かいしゃ)」を設立(せつりつ)しようとしていた人(ひと)たちは、東京(とうきょう)の水道(すいどう)のために役立(やくだ)ててもらおうと、自分(じぶん)たちの設計書(せっけいしょ)や調査書(ちょうさしょ)を東京(とうきょう)市区(しく)改正(かいせい)委員会(いいんかい)にプレゼントした。
東京(とうきょう)市区(しく)改正(かいせい)委員会(いいんかい)では内務省(ないむしょう)のお雇(やと)い技師(ぎし)、イギリス人(じん)のバルトンが中心(ちゅうしん)となって設計(せっけい)案(あん)をまとめた。それとともにパーマーの案(あん)や、ベルリン水道(すいどう)部長(ぶちょう)ヘンリー・ギルやベルギー水道(すいどう)会社(かいしゃ)技師長(ぎしちょう)クロースの意見(いけん)も参考(さんこう)にした。明治(めいじ)7（1874）年(ねん)のファン・ドールン以来(いらい)の計画(けいかく)を練(ね)りに練(ね)って、明治(めいじ)23（1890）年(ねん)4月(がつ)、ついに「東京市(とうきょうし)水道(すいどう)改良(かいりょう)設計(せっけい)」が決定(けってい)。「玉川(たまがわ)上水路(じょうすいろ)を利用(りよう)して、多摩川(たまがわ)の水(みず)を浄水場(じょうすいじょう)に引(ひ)き、沈(ちん)でん、ろ過(か)できれいにしたのち、ポンプ、あるいは自然(しぜん)の流(なが)れによって鉄管(てっかん)で市内(しない)に給水(きゅうすい)する」という内容(ないよう)だ。（浄水場(じょうすいじょう)は初(はじ)め、千駄ケ谷(せんだがや)を予定(よてい)していたけれど、明治(めいじ)24（1891）年(ねん)12月(がつ)、淀橋町(よどばしちょう)に変更(へんこう)になった。）
明治(めいじ)24（1891）年(ねん)11月(がつ)には水道(すいどう)改良(かいりょう)事務所(じむしょ)が開(ひら)かれ、いよいよ改良(かいりょう)水道(すいどう)の工事(こうじ)が始(はじ)まった。

13.なが～くかかった改良(かいりょう)工事(こうじ)
ところが工事(こうじ)は順調(じゅんちょう)には進(すす)まなかった。まず、資金(しきん)となる東京市(とうきょうし)公債(こうさい)が思(おも)うように売(う)れない。
明治(めいじ)24（1891）年(ねん)10月(がつ)からよく年(とし)にかけて「工事(こうじ)のためにお金(かね)の負担(ふたん)がふえるのはいやだ。工事(こうじ)をやめろ」と反対(はんたい)の声(こえ)もあがった。用地(ようち)の買収(ばいしゅう)もはかどらない。
そんななかで明治(めいじ)26（1893）年(ねん)10月(がつ)22日(にち)、淀橋(よどばし)浄水場(じょうすいじょう)（今(いま)の新宿(しんじゅく)西口(にしぐち)）は起工式(きこうしき)（工事(こうじ)を始(はじ)める式(しき)）をおこなった。
次(つぎ)に待(ま)っていたのは日清(にっしん)戦争(せんそう)（1894年(ねん)）だ。このため、材料(ざいりょう)や人手(ひとで)が不足(ふそく)し、戦後(せんご)はインフレで物価(ぶっか)があがった。
さらに「鉄管(てっかん)不正(ふせい)事件(じけん)」というのがおこった。
鉄管(てっかん)を売(う)りこんできた「日本(にっぽん)鋳鉄(ちゅうてつ)会社(かいしゃ)」が不合格品(ふごうかくひん)を合格品(ごうかくひん)として納入(のうにゅう)したのだ。これは明治(めいじ)28（1895）年(ねん)10月(がつ)にばれて政治(せいじ)問題(もんだい)になった。
けれど、不合格(ふごうかく)の鉄管(てっかん)を外国(がいこく)から買(か)った鉄管(てっかん)に入(い)れ替(か)えることで、明治(めいじ)31（1898）年(ねん)11月(がつ)、工事(こうじ)の大部分(だいぶぶん)が終了(しゅうりょう)。12月(がつ)から通水(つうすい)が始(はじ)まり、明治(めいじ)32（1899）年(ねん)11月(がつ)には給水(きゅうすい)地域(ちいき)が東京(とうきょう)市内(しない)全域(ぜんいき)におよんだ。
この年(ねん)12月(がつ)17日(にち)、淀橋(よどばし)浄水場(じょうすいじょう)で落成式(らくせいしき)（工事(こうじ)が終(おわ)ったことを祝(いわ)う式典(しきてん)）をして、明治(めいじ)44（1911）年(ねん)3月(がつ)、東京(とうきょう)の改良(かいりょう)水道(すいどう)の創設(そうせつ)工事(こうじ)は完成(かんせい)した。
この間(あいだ)、明治(めいじ)34（1901）年(ねん)6月(がつ)には神田(かんだ)・玉川(たまがわ)両(りょう)上水(じょうすい)が、明治(めいじ)40（1907）年(ねん)6月(がつ)には千川(せんかわ)上水(じょうすい)が給水(きゅうすい)を止めた。
江戸(えど)時代(じだい)からの上水(じょうすい)は近代(きんだい)水道(すいどう)と選手(せんしゅ)交替(こうたい)したのだ。

14.それでも足(た)りない東京(とうきょう)の飲(の)み水(みず) -第(だい)1次(じ)水道(すいどう)拡張(かくちょう)事業(じぎょう)-
改良(かいりょう)水道(すいどう)はおどろくほど衛生的(えいせいてき)で、便利(べんり)で防火(ぼうか)にも威力(いりょく)があった。「昔(むかし)ながらの井戸(いど)の方(ほう)がいい」と思(おも)っていた人(ひと)や、「工事(こうじ)費(ひ)や使用料(しようりょう)を負担(ふたん)するのがいやだ」と思(おも)っていた人(ひと)も、新(あたら)しい水道(すいどう)を認(みと)めるようになり、給水(きゅうすい)の申(もう)し込(こ)みは日(ひ)に日(ひ)に増(ふ)えていった。
都市(とし)の発展(はってん)も予想(よそう)以上(いじょう)で、明治(めいじ)42（1909）年(ねん)ころには「東京(とうきょう)市区(しく)改正(かいせい)委員会(いいんかい)」ではやくも水道(すいどう)を拡張(かくちょう)する計画(けいかく)が練(ね)られるようになった。新(あたら)しい水源(すいげん)を求(もと)めて、大正(たいしょう)5（1916）年(ねん)には村山(むらやま)貯水池(ちょすいち)の工事(こうじ)が始(はじ)まり、つづいて境(さかい)浄水場(じょうすいじょう)などの施設(しせつ)の建設(けんせつ)もすすめられた。

東京(とうきょう)の水道(すいどう)今(いま)むかし その2

15.大(だい)東京(とうきょう)の水道(すいどう)をひとつに
関東(かんとう)大震災(だいしんさい)（1923）以後(いご)、東京(とうきょう)はものすごい勢(いきお)いで復興(ふっこう)。郊外(こうがい)電車(でんしゃ)やバスなどの交通(こうつう)の発達(はったつ)に伴(ともな)って、まわりの町(まち)や村(むら)もめざましく発展(はってん)した。
けれど、東京市(とうきょうし)の水道(すいどう)の給水(きゅうすい)区域(くいき)は昭和(しょうわ)の初(はじ)めまで旧(きゅう)15区(く)に限(かぎ)られていた。まわりの豊多摩(とよたま)、北(きた)豊島(としま)、南(みなみ)足立(あだち)、南(みなみ)葛飾(かつしか)などの郡部(ぐんぶ)の水道(すいどう)は、町(まち)や町村(ちょうそん)組合(くみあい)や株式会社(かぶしきがいしゃ)が運営(うんえい)していた。郡部(ぐんぶ)からはずいぶん前(まえ)から市内(しない)と水道(すいどう)を一本(いっぽん)にしてほしいという希望(きぼう)がでていた。
昭和(しょうわ)7（1932）年(ねん)10月(がつ)、これら5郡(ぐん)（荏原(えばら)・豊多摩(とよたま)・北(きた)豊島(としま)・南(みなみ)足立(あだち)・南(みなみ)葛飾(かつしか)郡(ぐん)）82か町村(ちょうそん)が東京市(とうきょうし)に合併(がっぺい)し、15区(く)は一挙(いっきょ)に35区(く)となった。人口(じんこう)も497万人(まんにん)。当時(とうじ)世界(せかい)第(だい)2位(い)の大(だい)都市(とし)となる。
このことをきっかけに、町営(ちょうえい)や町村(ちょうそん)組合(くみあい)の10水道(すいどう)も東京市(とうきょうし)とひとつになった。残(のこ)る3社(しゃ)の民営(みんえい)水道(すいどう)も、昭和(しょうわ)20（1945）年(ねん)までにじょじょに買収(ばいしゅう)されていった。
旧(きゅう)郡部(ぐんぶ)の給水(きゅうすい)サービスは大(おお)いに改善(かいぜん)。水道(すいどう)料金(りょうきん)も30パーセントも安(やす)くなった。

16.十万栓(じゅうまんせん)普及(ふきゅう)大(だい)宣伝(せんでん)
旧(きゅう)郡部(ぐんぶ)の水道(すいどう)料金(りょうきん)が安(やす)くなった分(ぶん)、東京市(とうきょうし)の水道(すいどう)の財政(ざいせい)は苦(くる)しくなった。「収入(しゅうにゅう)を増(ふ)やさなければ！」ということで昭和(しょうわ)7（1932）年(ねん)10月(がつ)から昭和(しょうわ)8年度(ねんど)の末(すえ)までに水道(すいどう)栓(せん)を10万(まん)栓(せん)増(ふ)やす計画(けいかく)がたてられ、はなばなしく給水(きゅうすい)普及(ふきゅう)の宣伝(せんでん)がおこなわれた。
15区(く)から35区(く)に広(ひろ)がった「大(だい)東京(とうきょう)」出現(しゅつげん)の記念(きねん)事業(じぎょう)だったんだ。

「水(みず)の東京(とうきょう)」
1.花(はな)の東京(とうきょう)で ソリャ 見(み)せたいものは
ながす産湯(うぶゆ)と コリャサ 珠(たま)の肌(はだ)
ソレ、音(おと)はサンサンサラリトナ
サラリ サラサラ 多摩(たま)の水(みず)
2.水(みず)の山口(やまぐち) ソリャ 村山(むらやま)かけて
春(はる)は桜(さくら)の コリャ 水(みず)かがみ
ソレ、音(おと)はサンサンサラリトナ
サラリ サラサラ 多摩(たま)の水(みず)
（以下(いか)5番(ばん)までつづく）

「多摩(たま)の流(なが)れ」
1.萌(も)える若草(わかくさ)、野(の)はみどり
花(はな)を浮(う)かせて 水(みず)の旅(たび)
今(いま)は影(かげ)なき 武蔵野(むさしの)の
狭山(さやま)にうれし 茶摘唄(ちゃつみうた)
2.深山(みやま)の奥(おく)の 花(はな)の露(つゆ)
月(つき)に汲(く)みとる 岩清水(いわしみず)
同(おな)じ思(おも)いを 一筋(ひとすじ)に
何時(いつ)か都(みやこ)の 露(つゆ)となる
3.今宵(こよい)はここに わかれても
いつか逢瀬(おうせ)の ぼたん雪(ゆき)
溶(と)けて流(なが)がれて ゆくすえは
やがて春(はる)待(ま)つ 多摩(たま)の水(みず)

17.太平洋(たいへいよう)戦争(せんそう)の中(なか)の小河内(おごうち)貯水池(ちょすいち)計画(けいかく) -第(だい)2次(じ)水道(すいどう)拡張(かくちょう)事業(じぎょう)-
水(みず)の需要(じゅよう)は増(ま)すばかり。大正(たいしょう)15（1926）年(ねん)頃(ころ)には東京(とうきょう)市会(しかい)で「将来(しょうらい)のため水道(すいどう)百(ひゃく)年(ねん)計画(けいかく)をたてよう」と決議(けつぎ)された。
多摩川(たまがわ)だけでなく、新(あたら)しい水源(すいげん)を手(て)に入(い)れようとしたけれど、利根川(とねがわ)、相模川(さがみがわ)などよその県(けん)の川(かわ)は権利(けんり)の問題(もんだい)もあってうまくゆかない。
結局(けっきょく)、多摩川(たまがわ)にたよるしかなく、そこで出(だ)されたのが小河内(おごうち)貯水池(ちょすいち)計画(けいかく)だった。
昭和(しょうわ)6（1931）年(ねん)、計画(けいかく)が発表(はっぴょう)されたが、これまた、下流域(かりゅういき)の用水(ようすい)組合(くみあい)から抗議(こうぎ)があがったり、買収(ばいしゅう)に手間(てま)どったりして、ようやく工事(こうじ)が始(はじ)まったのは昭和(しょうわ)13（1938）年(ねん)。ところが今度(こんど)は戦争(せんそう)がおきて、材料(ざいりょう)が手(て)にはいらない。人(ひと)も集(あつ)まらない。昭和(しょうわ)18（1943）年(ねん)10月(がつ)、工事(こうじ)は中止(ちゅうし)になってしまった。戦後(せんご)の昭和(しょうわ)23（1948）年(ねん)9月(がつ)、ようやく工事(こうじ)が再開(さいかい)して、完成(かんせい)は計画(けいかく)発表(はっぴょう)より26年(ねん)後(ご)の昭和(しょうわ)32（1957）年(ねん)6月(がつ)のことだった。